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幸せのカタチ 9

2009/01/28 Wed 18:59

「京子ちゃん。君と蓮をこの手で漸く撮れることを嬉しく思うよ。」
「新開監督・・・。ありがとうございます。」
さあ、笑って仕事をしよう。
敦賀蓮との最後の共演。
彼を一番近くに感じることが出来る最後の日。

「よろしくお願いします。京子さん。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。敦賀さん。」
逢いたくて逢いたくて・・・・逢いたくなかった彼が目の前にいる。
もう、私をキョーコと呼んでくれる彼はどこにもいないけれど。
全身が心臓になったみたいにドキドキしてる。
大丈夫かな。この人に聞こえてないだろうか。
・・・・私は平気な顔ができているだろうか。

「二人には本当に思いあっている恋人同士を演じて欲しい。まあ、自分らの想いをそのまま出してもらえばいいんだけどね。」
「やだ。新開監督。自分の想いって何ですか?敦賀さんと私はただの先輩・後輩なだけですよ?」
「ん・・・?そうか・・・?」
「はい。決まってるじゃないですか。」
「そう。」
「はい。」
これくらいの演技をするのは簡単。私は敦賀蓮とクー・ヒズリに演技を教えてもらったんだもの。
それにしても新開監督、危ないことを言ってくれるわ。でも私たちのことは監督は詳しく知ってるわけじゃないから社長からの口止めも届いていないのだろう。
「蓮もよろしく。仲良しの京子ちゃんとなら最高の作品を作り上げてくれると思うけど。」
監督の言葉にヒヤヒヤしながら、隣の彼を見上げる。
「ええ。監督の期待に応えられるように頑張りますよ。」
ひい!!!
なんでこの笑顔なの!?なんでこのタイミングで似非紳士スマイルなの!!!!????
は・・・離れなければ・・・・。
じり・・・と二人のもとを離れようとする。
「ところで京子ちゃん。役について少しだけ話をしたいんだけどいいかな?」
「え・・・・」
笑顔のままで私に拒否権はないよと言わんばかりに近寄ってくる。
なんでいきなりちゃん付け!?しかもいつも通りの言葉遣いに変わってるし!!こわい!!怖い怖い怖いですから!!!!!
腕をつかまれてスタジオの外に引きづられていく。
「ちょ・・・っ敦賀さん!?」
「れ・・・蓮・・・」
傍にいた社さんも困惑した顔をしている。
新開監督は楽しそうに「話は手短にしてメイクに入れよ~」と言っている。
いや、そうじゃなくてさっさとメイクに入れって言ってくださいよ!!
私は必要以上この人の傍に居たくないんです!!

無言で腕を引っ張られ連れて行かれたのは敦賀蓮の控え室。
久しぶりの彼の手はやっぱり大きくて暖かくて、このままでいたいと思ってしまう。
こんなこと思ってはいけないとわかっているのに。
控え室に入って、鍵をかけられた。
「・・・どういうつもりですか?敦賀さん。」
「それは俺の台詞だと思うけど?どういうことなのか教えて欲しいんだ。俺たちは仲良しなんだろう?京子ちゃん?」
鋭い視線で見つめられ、つながれた腕はそのままで敦賀さんは言った。
「・・・仲良しに見えただけなんじゃないんですか?敦賀さんは誰にでも友好的な方ですから。私もそのなかのひとりです。だから私とあなたが特別仲がよかったわけじゃありません。」
「・・・・俺には君が特別な存在に思えて仕方ないんだ。本当のことを教えてくれないか?」
「さっき言ったことが本当のことですよ。それ以外何があるっていうんですか。あなたはトップ俳優。わたしは下っ端のタレントですよ。同じ事務所という以外の接点なんかあるわけないじゃないですか。もうメイクに行きます。腕を離してください。」
お願いです。これ以上ここにいたら希望をもってしまう。
持ってはいけない違う未来を期待してしまう。
まっすぐに彼の目を見つめたら、ひとつ大きなため息をついた後、ゆっくりと腕を離してくれた。
「失礼します。」
そう言って部屋を出た。
早く離れなければいけない。
でも、からだは言うことを聞いてくれなくて、ずるずると座り込んでしまった。
「・・・っく・・・・ふぅ・・・っ」
いけないのに。これから撮影だから目を腫らすわけにいかないのに、涙が次々とこぼれていく。
こんなところで泣いていたら誰かに見られてしまうのに・・・。
「キョーコちゃん・・・・」
「っ社さん・・・」
顔をあげると社さんがつらそうな顔で立っていた。
ああ・・・こんな顔をさせているのは私だ。
「な・・・なんでもないですよ。ちょっと腕をぶつけて・・・涙が出るくらい痛かっただけですから。じゃあ、私着替えてきますね。」
あわてて涙を拭いて笑顔を作る。我ながらバレバレな理由だと思ったけど、それ以上のことは何も言わずに、自分の控え室に入った。

泣くのはあとでいくらでもできる。うそをつくのも簡単だ。これであの人の未来を守れるなら、つらくなんてない。
小さながま口からコーンを取り出し握り締める。
大丈夫、大丈夫、私は大丈夫。
これで最後。私に勇気を頂戴。

******

「二人には本当に思いあっている恋人同士を演じて欲しい。まあ、自分らの想いをそのまま出してもらえばいいんだけどね。」
「蓮もよろしく。仲良しの京子ちゃんとなら最高の作品を作り上げてくれると思うけど。」
新開監督はたしかにそう言った。
恋人同士・自分らの想い・仲良し。
今までの彼女の態度からはとてもそうは思えない言葉だった。
でも、人の心に聡い新開監督が言うんだからきっと本当のことなんだろう。

俺は無理やりとも言える形で彼女を自分の控え室に連れ込んだ。
掴んだ彼女の腕は細くて、でもとても懐かしい気もしてドキドキと胸の高まりさえ憶えた。
控え室に入って鍵をかける。握った腕はそのまま。これを離したら彼女はすぐにここを出て行ってしまう。
聞きたいことはいくらでもある。
そして伝えたいことも・・・。
彼女の口から本当のことを聞きたい。
誰かからではなく、彼女自身の言葉で。
それでも・・・彼女から出たのは全てを否定した言葉だった。
どうしてだ?どうして・・・本当にその言葉が真実なら・・・・そんな顔をする?
平気そうな態度をとっているのに、俺には今にも泣きそうに見えた。

彼女が部屋を出て行った後、彼女を掴んでいた自分の手をぐっと握り締めた。
自分の手さえ愛おしい。そんな感情。
「くそ・・・・っ」
どうしたら彼女の心を聴くことができるんだ。
もどかしい。こんな気持ち初めてだ。

コンコン、とドアをノックされた。
「蓮・・・いいか?」
ドアの前にいるのが社さんだとわかり、「はい。」と返事をした。社さんは静かにドアを開けて中に入ってきた。
そして、思いつめた顔で一言・・・
「蓮・・・キョーコちゃんを助けてくれ・・・」と――――――――


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